推定量の一致性という性質は,推定論における重要な概念である.一致性は,推定値 が,想定したモデルの真の値を近似することを保証する.大胆に言えば,科学とは再 現性を追求することである.推定量に一致性がなければ,標本ごとにまったく異なっ た分析結果を生んでしまうことになり,科学的な推論ができない. (探索的)因子分析モデル $\Sigma=\Lambda\Lambda'+\Psi$ ($\Lambda:p\times k,\; \;\Psi:p\times p$ 対角行列) において,最尤推定量 $(\wht\Lambda,\wht\Psi)$ が 一致性をもたないのではないかという主張(津村 1970, 岩波 科学)や,過去の一致 性の不十分な証明 (e.g., Anderson-Rubin 1956; Shapiro 1984) に対して,因子分 析モデルを含む一般的な共分散構造モデル $\Sigma(\theta)$ において一致性の完全 な証明を与えた ([1], [3]). [4] では,1因子モデルにおいて(このとき,$\La=\la$: $p\times1$ ベクトル),観 測変量の次元 $p$ を固定せずに,$||\wht\lambda-\lambda||\P 0$, $||\wht\Psi- \Psi||\P 0$ となるための標本サイズ $n$ と次元(変数の数) $p$ に関する条件を与 えた.その条件は $n^{-1}p\to 0$ である.この結果はデ−タの次元 $p$ が高くな ると標本サイズは $p$ に応じて(少なくとも)線形的に増加させる必要があることを 示唆している. [5] は [4] の結果を共通因子の予測問題に応用した.
前項の最初で,社会科学では多変量正規性の仮定が満たされていないことが多いとい った.しかし,多変量正規性の仮定が正しくなくとも,統計的推測は正しくおこなえ る,ということが有り得る.多変量正規性の仮定が崩れていても,計算機の出力は正 しいかもしれない,ということである.どの程度正規性が崩れても統計的推測が正し くおこなうことができるのか,これを調べることがロバストネス(頑健性)といわれ る研究分野である. 独立性の検定 $H_0:\Sigma_{12}=0$ では,帰無仮説の下での分散共分散行列が $\Sigma=\left[\begin{array}{cc} \Sigma_{11} & 0 \\ 0 & \Sigma_{22} \end{array}\right]$ と表現されるので,これも1つの共分散構造モデルである.正規性の下で,LR 統計 量は \begin{equation} LR:=n\cdot\log\frac{|S_{11}||S_{22}|}{|S|}\L \chi^2 \end{equation} なる性質を持つ.実は,(3) はたとえ正規性が崩れていても $\bfx_1$ と $\bfx_2$ とが独立でありさえすれば成立する.一方,楕円分布の下では, $$ LR/\wht\eta\L\chi^2 $$ が成立する.ここで,$\wht\eta$ は多変量尖度の一致推定量である.これらの結果を 利用するには,$\wht\eta$ で割るべきであるかどうかを決定しなければならない. [16] では,上記2つの分布族に対して共通に $$ LR/\wht\alpha\L\chi^2 $$ であるような新しい修正係数 $\wht\alpha$ を構成した. [17] では,共分散構造分析における適合度検定 $$ H_0:\Sigma=\Sigma(\theta)\quad \mbox{v.s.}\quad H_1:\Sigma>0 $$ に対する6種の検定統計量を取り上げ,6種の非正規分布と6段階の標本サイズの下 で検定統計量の performance を数値実験により比較・検討した. [20] では,共分散構造分析における統計的推測のロバストネスに関する研究成果を unify した.さらに,観測変量の4次モ−メントが存在しないときでも,MLE の漸近 有効性が成り立つことを示した.
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