1. 確率解析

確率解析は,ブラウン運動を代表とするランダムな粒子の軌跡に関する微分積分学です.軌跡で微分したり積分したりするので,無限次元の解析学ということになります.例えば株を売買して資産運用するとしましょう.そのとき最終的な運用収益は,株の保有量を株価の軌跡に沿って積分した値となります.これが確率積分(伊藤積分)です.ブラウン運動を最初に数学的に考察したのはバシェリエ(1900年)で,彼は株価のモデルとしてブラウン運動を扱いました.次いでアインシュタイン(1905年)が,当時まだ仮説でしかなかった原子論(目に見えない分子の存在)の検証のために,溶媒分子による衝突の結果としてブラウン運動の性質を予言しました.今となっては分子の存在は常識ですが,その最初の証拠はブラウン運動の解析を通してもたらされたのです.確率解析の応用例は語り尽くせません.

2. 数理ファイナンス

上記のように株の投資運用収益は確率積分として表現できます.するとファイナンスの問題がすべて確率解析の問題に対応することになります.ファイナンスの問題意識に基づいて,対応する確率解析の問題を考察するのが数理ファイナンスです.経済活動にはリスクが伴います.このリスクを取引して最適に配分し,社会の厚生を上げるために金融派生商品とオプション市場があります.数理ファイナンスの基本問題は,金融取引を通じてどのようにリスクを減らす(ヘッジする)かです.金融システムが国際化,高速化,複雑化した現在,この分野の研究は世界の経済を左右しうる重要なものです.