数理ファイナンス 関根 順

数理ファイナンス(mathematical finance)分野のいくつかのトピックスに興味を持って研究しています.大雑把に言うと,金融市場の(確定的ではない)確率論的なふるまいをする数理モデルを構成して,このモデルを用いて金融市場上の問題を解析します.例えば,

  1. 金融派生商品の理論的な価値評価を行うこと,
  2. 投資家や金融機関の保有している資産の「リスク量」を計測すること,
  3. 「最適」な投資手法や消費ルールを考察すること
などが典型的です. これらを例にとっても,現実にはどれもいろいろな要素が複合的に組み合わさった複雑な問題です.魑魅魍魎とした複雑な現実の問題から,如何にしてシンプルな数学的な本質を抽出してくるかが,数理ファイナンス分野で重要なポイントの一つだと思われます.(一方で,現実に応用する際は,単純化された数学的モデルの限界も十分認識しておく必要がありますが.)確率論(特に確率過程論や確率制御理論)の応用分野とも見做せるかもしれませんが,実際の金融実務界での問題を常に意識しながら今なお発展し続けている比較的新しい研究分野です.

以下に,現在関心を持って研究している上記(iii)に関連したトピックスをいくつか紹介します:

フロアー制約付き最適投資・消費問題

\[ V(t,x):=\sup_{\pi,c}\mathbb{E}\left[\int_t^T u(s,c(s))\mathrm{d}s + U(T,X(T)) \mid X(t)=x\right] \] の形の確率制御問題からを考察します.ただし,\(u,U\)は効用関数, \[ \mathrm{d} X(s) = \pi(s)^{\mathrm{T}}\sigma(s)\{\lambda(s)\mathrm{d}s+\mathrm{d}W_s\}+\{r(s)X(s)-c(s)\}\mathrm{d}s, \] \((s\in [t,T])\)は投資家の資産総額を表す確率微分方程式で,\((\pi(s))_{s\in [t,T]}\)は投資戦略,\((c(s))_{s\in [t,T]}\)は消費戦略を表し,フロアー制約: \[ X(s)\geq K(s), \hspace{10px}\forall s\in [t,T] \] を満たすものです.\((K(s))_{s\in [t,T]}\)は,例えば市場の株式・債権を組み合わせたインデックスから構成されるベンチマークです.以下が現在の研究トピックスや課題です:

  • 特異型確率制御を用いて表現される双対問題と,関連した最適停止問題のさらなる考察:特に
    • 最適停止境界を表す自由境界の性質の考察
    • 最適停止問題(ある種のアメリカンオプション)の近似解法
  • アセットマネージメントとしての解釈:例えば既存のポートフォリオインシュアランス戦略との比較や新たな運用戦略の提案
  • 非完備市場下での解析:特に双対問題(連続型・特異型混合確率制御問題と)の解析
  • 最大値過程を用いて表されるドローダウン制約: \[ X(s)\geq g\left(s,\max_{u\in [t,s]}{X(s)}\right), \hspace{20px}\forall s\in [t,T] \] の考察.