数学専攻 情報数学(領域)紹介

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狩野 裕(専門:数理統計学)

筑波大学には学群と専門学群がそれぞれ3つずつあり、第一学群はその中の1つです。第一学群の中には3つの学類があり自然学類はその中の一つです。自然学類には専攻が4つあり数学専攻はその一つです。数学専攻の中に研究領域が4つあり情報数学(領域)がその一つです。情報数学の中に主に3つの研究分野 --- 数理論理学、数理統計学、計算機数学 --- があり、私の研究分野は数理統計学です。このように現代科学は細かく細分化されていて「隣は何をする人ぞ」という表現がぴったり、他の研究分野の人とはなかなか話が通じません。これはよくないことなのですが.... という訳で、私も例外ではなく分野が同じでも他の人達の研究を上手に紹介できる自信がありません。数理論理学のモデル理論といったって、数学的構造を厳密に定義する、ということぐらいしか手持ちがありませんし、数式処理を行うコンピュータが因数分解をどのようにするって、興味ありますね。数理統計学については、まあ、語ることはたくさんあるのですが、今度は紙面が足りません。

一つ強調しておきたいことがあります。一般的に言って、他大学の数学科では情報数学にあるこの3つの研究分野 --- 数理論理学、数理統計学、計算機数学 --- は専攻しにくいのです。つまり、このような専門の先生がいないことが多いのです。一方、私達の数学系では、これらの分野にそれぞれ4名程度の教官が在籍し、活発な研究グループを作っています。

情報数学は人気があります。3年生の卒業予備研究、4年生の卒業研究(ゼミ)をたくさんの学生が取ってくれています。平成7年度、情報数学のゼミを取った学生は 19 名 (53 人中)、平成8年度は 17 名 (49 人中) となっています。

さて、ここからは私の専門である数理統計学について紹介します。情報数学においても数理統計学は人気があります。ゼミを開講する先生が3人いますが、平成7年度、数理統計学のゼミを取った学生が9名、平成8年度は8名でした。

さて、身近な例をいくつか紹介しましょう。皆さんは、世論調査の「内閣支持率」や、最近流行っているニュース番組での電話アンケートをよく見聞きするでしょう。調査にもよりますが、2,000 人前後の人にアンケートをします。これらの人はどのようにして選ばれるのかご存じですか。多くの場合、「層化二段抽出法」という数理統計学的方法で行われています。新聞の片隅やときにはキャスターが説明しています。

2つ目は衛星の打ち上げです。H2 ロケットは純和製の衛星打ち上げロケットですね。日本では衛星を打ち上げるのに約 400 億円かかります(衛星代込み)。一方、米国やフランスでは 300 億円ぐらいでしょうか。衛星打ち上げには保険を掛けることができます。保険料は日本でも欧米でも約 30 億円といわれています。打ち上げに失敗すると保障される金額が 400 億円、300 億円とかなり違うのに、どうして保険料が同じ額なのでしょうか。その理由は失敗する可能性に違いがあるからです。日本は今まで一度も失敗していません(延期は度々ある)が、欧米は 10 発に1発ぐらいの割合で失敗しているのです。このような保険の料率を決めるのも数理統計学です。

いま紹介したのは損害保険の例ですが、生命保険も依ってかかるものは数理統計学です。日本の生命保険会社は世界一です。その理由は、日本人の無類の保険好きもその1つですが、戦後、日本の保険会社が日本人の死亡率を高く見積もり過ぎ(予想よりも長生きした)、保険料を高く設定したためでもあります。当時の統計解析は未熟であったと言わざるを得ません。

3つ目は、最近あまり良い話を聞きませんが「薬」についてです。新薬を認可するポイントは薬効と毒性です。従来薬と比べて、薬効で優れ毒性が低ければ新薬は認可される訳ですが、限られた動物実験と臨床試験でこれを立証しなければなりません。そのための強力な道具が数理統計学的方法です。

このように数理統計学は現実の問題と密接に結びついています。学類生や院生の皆様は、このような実社会からの要求に応えるための数学的基礎を勉強します。統計的素養を身につけた卒業生が各種調査会社、保険会社、製薬会社で活躍しています。

大学では、統計モデルの構築や、既存手法の数学的基礎固めや改良、最適理論などを研究しています。最近の私自身の研究テーマを少し紹介いたしましょう。私は、現在いわゆるピュアーな数理統計学と応用統計学に近い分野の2本立てで研究しています。ピュアーな数理統計学の分野では、「超高次漸近論」というテーマで、推定法の効率を研究しています。統計学の生みの親といわれる R.~A.~Fisher と 現在のスーパースターである C.~R.~Rao の夢といわれる問題への挑戦です。赤平教授はこの分野の世界的大家です。応用統計学に近い分野というのは、「共分散構造分析」という多変量解析の一分野です。1例だけあげますと、本年3月26日の日本経済新聞朝刊第1面で、「多角的企業評価システムによる企業ランキング」が発表されています。21世紀に向けてのよい会社という観点からの企業評価です。そこで用いられている統計手法が共分散構造分析です。詳しく述べるスペースはありませんが、興味のある方は、BASIC数学(現代数学社)での連載記事「共分散構造分析とソフトウェア」をご覧ください。学群生でも理解できるよう易しく解説してあります。


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