共分散構造分析ソフトウェア 『AMOS』

                     
筑波大学数学系 狩野 裕

『AMOS』は,Temple(テンプル)大学のJames L. Arbuckle(ジェイムズ アルバクル)博士が開発した共分散構造分析ソフトウェアで,Windows 3.1以降のOSに対応しています.共分散構造分析は,構造方程式モデリング,因果構造分析などとも呼ばれ,回帰分析やパス解析,因子分析などを含む多変量解析の総称です.共分散構造分析で有名なモデルにLISRELモデルがあり,ソフトウェアでは,LISRELや EQS が有名です.

『AMOS』は,Analysis of MOment Structures (モーメント構造分析)の略です.ふつうは,共分散構造分析といえばその名の通り,共分散(2次モーメント)のみを分析の対象とするのですが,『AMOS』という名称は,平均(1次モーメント)をも分析の対象として組み込むことができる,という点を強調したものです.『AMOS』は,LISRELモデルを始め,多母集団の比較,平均構造モデルなどLISRELやEQSで扱えるモデルはすべて扱うことができます.

共分散構造分析では,想定した因果関係をデータから検証することが重要な目的の一つです.因果関係を図示したものをパスダイアグラムといいます.『AMOS』は「graphically based program」と自称しているように,パスダイアグラムを描く大変便利なツールを搭載しており,描いたパスダイアグラムがソフトウェアの入力になります.共分散構造分析のソフトウェアでは,以前は,入力に線形代数の知識が必要でしたが,その後,因果を表す方程式を入力するようになりました.昨年あたりから,入力をパスダイアグラムで行うソフトウェアが出現し,今後,この入力方法が主流になると思われます.『AMOS』は,入力をパスダイアグラムで行うことができるソフトウェアの先頭を走っており,現在のところ,他に一歩水をあけているといえるでしょう.出力されるパスダイアグラムは,そのまま報告書や論文用として使うことができます.

データさえあれば,解析のすべてがマウス一つで実行できます.ツールで描いたパスダイアグラムを自動的に認識し,推定値やさまざまな適合度指標を出力,パスダイアグラム上にパス係数や分散・共分散の推定値を表示します.そのプロセスはスムーズで,たいへん快適です.

『AMOS』のいくつかの特徴を上げておきます.(i) 欠測値の処理方法として,ペアワイズやリストワイズにデータを取り除くという方法ではなく,最尤法を装備していること.(ii) 推定値の標準誤差や適合度指標の計算にbootstrap法が使えること.(iii) 一つのジョブで複数個のモデルを同時に推定できること. ややマニアックですが,「Amos modeling laboratory」 というコマンドがあります.推定値を求める際反復法を用いますが,このコマンドを実行すると,各反復における推定値がパスダイアグラムに次々表示されます.また,適合関数の値や推定された共分散行列の値が標本共分散行列と共に表示されます.推定された共分散行列が標本共分散行列に近づく様子,その結果,適合関数の値が減少していく様子が目にみえるという訳です.

『AMOS』のデモ版を,http://www.smallwaters.comから手に入れることができます.デモ版では,観測変量数が6以下,パラメータ数54以下と制約されている以外は,正式のプログラムと同等です.また,パスダイアグラムに日本語が使えるバージョンを今年末に発売予定であるとのことです.


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