SPSSオープンハウス'99に参加して

                     
狩野 裕(大阪大学人間科学部助教授)

SPSSオープンハウス'99に参加した.オープンハウスでは,SPSS新製品の紹介やデモ,SPSSを使った分析事例が紹介される.今回が3回目で,SPSS Japan 創立10周年記念事業の一つでもある.

SPSS International の副社長である Jon Petersen 氏による基調講演では,SPSSが30周年を迎えたことは消長盛んなソフトウェア業界では例外的であること,データマイニングソフト"Clementine"("Clementine"とはアイルランド民謡に出てくる鉱夫の娘の名前らしい.このことが,ゴールドラッシュ,月面探査機,マイニングとつながるのかも)で有名な英国 ISL 社を昨年12月に買収し,統計学の進むべき一つの方向を示すデータマイニングの需要へ備えていることなどが紹介された.続いて,特別講演として Werner Wothke 氏(Small Water 社長)が,共分散構造分析プログラムである Amos 4.0を紹介してくれた.

SPSSの新製品紹介では,最新バージョンであるSPSS 9.0 for Windows での新しい機能などが紹介された.バージョン 8.0 以上の機能として新たに加わったインタラクティブグラフはなかなかの出来映えである.今までは一端グラフを描いてしまえばそれまでということが多かったのだが,インタラクティブグラフはひと味違う.描き上げたグラフで変数を交換したり,2次元グラフを3次元グラフへ変更したりと,インタラクティブという名称からの期待を裏切らない.また,バージョン9では多項ロジスティック回帰分析が加わった.Smart Viewer Web Server は,SPSSの出力を Web ブラウザで読むためのインターフェースを与えてくれる.SPSSの出力ファイル *.spo はSPSS本体もしくは Smart Viewer がなければ読めないわけだが,このことが Web への埋め込みを不可能にしていた.分析結果のレポート出力や Web への対応など Windows や GUI に強いSPSSがさらに強化された現実を見て,私も早速バージョンアップをすることにした.

SPSSのもう一つの魅力は,Amos, AnswerTree, Missing value analysis など,統計学の最新の発展を素早く取り入れ商品化することであろう.日本固有の「数量化プログラム」を持っているのもよい.新製品紹介での AnswerTree のデモは小気味よく行われた.Tree が大きくなったときに部分的に拡大して表示する機能はプレゼンテーションに極めて有効である.

午後には8つの事例発表があった.小金澤裕二氏(NTTデータ)の「インターネットによるワン・ツウ・ワン・マーケティング:データマイニングによるフィードバックの実践」と井上哲浩氏(関西学院大学)の「Amos による妥当性の検証:店頭プロモーション効果測定」の講演を聞かせていただいた.小生当日風邪を引いていて早退してしまったが,朝野煕彦氏(専修大学)の「AnswerTree の予測精度に関する実証研究」など興味のある講演がたくさんあった.データマイニングとは,最新のコンピュータテクノロジーによって刻々と収集される大量のデータを瞬時に分析する統計手法の総称である.鉱脈を発見する作業にちなんでマイニングの名がある.人間の心を対象とする心理学への応用は未だ出ていないが,通信の分野やマーケットリサーチ研究などでは強力な武器になっている.

私が今回オープンハウスに参加した理由は,Werner Wothke 氏にお会いしたかったのと,私の専門である共分散構造分析の事例発表を聞きたかったからである.もちろん Amos 4.0 の中身も知りたかった.実は一年ほど前から個人的に Amos 4.0と関わりがあったのであるが,その商品は心地よいものではなかった.しかし,今回のお二人のデモを見てすべての点で バージョン 3.* を上回る出来映えだと感じた.日本語版は未だ発売されていないが,メニューが日本語で,日本語の変数名が使える.以前のバージョンから Windows への対応は大変良かったが,さらに磨がかかっている.SPSSのデータが読め,変数リストからパス図描画ウインドウに変数をドラッグするだけで変数名入りの観測変数が描ける.旧バージョンでは,変数を描いた後に変数名を入れるのが面倒であった.バージョン 4.0 英語版は今春に,日本語版は今夏に発売予定である.日本人ユーザーは日本語版の発売が待ち遠しいかぎりであろう.

事例発表後の懇親会は和やかに楽しく行われたようである.


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