くじ ゆうたやん

written by piyo



この作品は完全なるフィクションではありません.ですが,大いに誇張表現を含んでおります.また,実在する団体名等が登場するかもしれませんが,たぶん相関は0.3くらいで有意確率0.06くらいです.



「こういうときは喋らん方がいい.今日は黙って帰ろう」


「えー,今日集まってもらったのは,うちの自治会の会長,および副会長を決めましょうということでありまして,…」
  ここは,とある自治会館である.どこにでもある,自治会館である.いまここにざっと数十名居る.この中(欠席者もいるが)から自治会の会長と副会長を決めようとゆうのだ.

「こういうときは喋らん方がいい.今日は黙って帰ろう」

  基本的に喋るという行為は能動的である.アグレッシブである.誇るべきことであろう.しかし,今ここのようなところでよけいなことを喋ると,やる気がある,もしくは責任感があるとみなされて,会長,運が良くても副会長に選ばれるのがオチだろう.そう,こういうときは喋らない方がいい.目立ってはいけないのだ.今の私にはそのようなありがたい役職の仕事をする時間などないのだ.今日は黙っておこう.

「えー,会長,副会長の方はですねー,くじで決めようかと思います」

くじ?

「えー,みなさん,いいですかねー.じゃあ,くじで決めることにしましょう」

  「くじ」ならば,確率,つまり一人一人に対する選ばれやすさは等しいはず.ということは喋ろうが喋らまいが,選ばれるときは選ばれるだろう.つまり「喋ること」と「選ばれること」はこの場合,独立である.じゃあ,喋ろう.


「つまり,私が言いたいのはですね,…」(パワポ作ってくれば良かった)


  その後,会議は進行し,予定通り,くじで会長,副会長が決まり,解散となった.私は,くじ運の良さでそれらを回避し,清々しい気持ちで 家路に着いた.夜空の星が綺麗だったことを覚えている.



………それから数日後………

  そう,数日後のことである.新任の自治会長さんからお電話をいただいた.

「狩野さん,すまんが副会長をやっていただけんかね?

「は?」

狩野さんしか適任者はいないと,私は思うんや」

「え?」

  つまり,こうである.くじで会長,副会長は決まった.けれども,副会長に選ばれた一人(副会長は三人なのである)が,どうもそのような自治会関係には出ない人であって,ポストが一つ余ってしまったのだ.いや,この場合,ポストが余ったのではなく,人が足りなくなったと言った方がよいだろう.もう一度,くじをするには皆に集まってもらわなければいけない.各人の貴重な時間が削られてしまう──悩んでいた会長の脳裏にあの夜の会議が思い浮かんだ.

「つまり,私が言いたいのはですね,…」

それは,熱心に議論に参加する,狩野さんの姿であった.あの発言力,そうだ,狩野さんしかいない.このポッカリ空いた穴(役職)を埋めるにふさわしい人物は,狩野さんしかいない.適任者は狩野さんだ──と自治会長は思われたそうだ.

そして…

「狩野さん,すまんが副会長をやっていただけんかね?
狩野さんしか適任者はいないと,私は思うんや」



  頼まれたら断れない性格の私は,自治会長のお願いを受ける形で見事,副会長に選ばれてしまった.電話のむこうでは自治会長さん感謝の言葉….電話を切った後,そう,私はこう思ったのだった.








「くじ,ゆうたやんっ」




  これは予測でも因果でもなく,第三変数の話に持っていきたいわけでもない.
  とある平日.今日も自治会があるので,くじらや(食堂の名前である)での夕食を早めに済ませた.自治会資料を確認した上で,大学から自治会館を目指す.ふと,空を見上げると,星がちょうど輝き始めたころであった.思いを馳せる.次は,「PTA会長」あたりであろうか,と…