第78回行動計量シンポジウム
構造方程式モデルと因果

因果推論における回帰分析の重要性を再確認した後,説明変数においても因果構造を設定できる (SEMによる)パス解析の有用性を指摘した.パス解析では,第三変数の役割,すなわち,交絡変数, 中間変数,合流点に応じて,それらを具体的にモデリングすることができる.

続いて,Rubinによる因果モデルを紹介した.割付けと欠測は表裏の関係であること,すなわち,欠測 のありようを示す諸概念(MCAR, MAR, Ignorable missing)とそこでの統計的推測における役割は,実 験における割付けのありようと推測に同等であることを注意した.具体的には,MCARは無作為割付 けに,そして,MARは割付けが第三変数に依存する状況に対応する.SEMは,MARにおいてシンプルで有効なモデルを与えていることを示した.

最後に,Rubinの因果モデルの考えを,心理学で有名なLordのパラドックスへ応用した.同パラドックス は,pre-test とpost-testとの変化におけるグループ間の差異を調べる研究において,pre-testと post-testの差を特性値としてanovaを行った分析とpre-testを共変量としてancovaを行った分析が矛 盾した結論を導くことがあるというものである.従前から,両分析はコントロール群の設定において差 異があることは知られていたが,講演者は,ancovaにおける回帰効果の妥当性が鍵であることを指摘 した.