<

N体問題やハミルトン力学系について,
いくつかの側面から研究している.

1. 変分法・周期解

3体問題のの存在が証明されて以来,
その手法を拡張させることによりN体問題の多くの周期解が発見されてきた.
本研究では, より多様な周期解を求めることを目指している.
2n体問題の対称的な周期解や4体問題のなどの存在証明に成功した.
また, 周期解以外の解を変分法により求めることも目指している.


[8の字解に関する文献]

[1] 柴山允瑠, 3 体問題, 日本評論社 「数学セミナー」, 2009 年 7 月号.
ポアンカレが変分法で周期解を得ようとしたアイディアとか, 8の字解の存在証明とかを説明した.


[2] R. Montgomery, A new solution to the three-body problem, Notices of the AMS, pp471-481
(May 2001)
8の字解の存在証明や関連する話題について, 大変分かりやすく書いてある解説文.


[3] A. Chenciner & R. Montgomery, A remarkable periodic solution of the three-body problem in the case of equal masses. Ann. of Math. (2) 152, pp881-901 (2000)
8の字解の存在を証明した原論文. [2]を読んでから読む方が理解しやすいと思う.


2. 衝突多様体

N体問題における2体衝突特異点は, 弾性衝突と捉えることが自然である. それは, 2体が非常に接近したときの振舞を考えると直感的に理解できるし, 理論的にもLevi-Civita変換により微分方程式を2体衝突特異点のところでも滑らかになるようにすることで正当化できる.
では, 3体衝突はとなると, 難しい.McGeheeの手法により3体衝突特異点をブローアップすると特異点に相当する多様体が現れる. その多様体を衝突多様体という. 本研究では衝突多様体上の軌道を調べることで, 3体が接近したときの特異的な振舞を調べている.


[衝突多様体に関する文献]

[1] R. McGehee, Triple Collision in the Collinear Three-Body Problem, Invent. Math., 27, pp. 191-227(1974).
最初に3体衝突特異点をブローアップする手法を導入した論文. 3体衝突をブロアップした後に残る2種類の2体衝突特異点をブローアップする計算は彼の名人芸である.

[2] R. L. Devaney, Triple collision in the planar isosceles three-body problem, Invent. Math. 60 249--267(1980)
二等辺3体問題の3体衝突特異点をブローアップしている. 3体衝突特異点を解消後の2体衝突特異点のブローアップが易しいので, [1]より理解しやすいと思う.


3. KAM理論

摂動論は, 解ける系(可積分系)をもとにそれを少し変化させた系の振舞を調べる理論である.
ハミルトン力学系では, 可積分系を摂動すると, 可積分性の性質がいくらか残ることを保証するKAM理論が代表的ある. KAM理論は, 太陽系モデルの安定性の問題などが起源である.
本研究では, 太陽系モデル以外のN体問題のモデルにおいて, KAM理論の応用を試みている.


[KAM理論に関する文献]

[1] L. Chierchia, Kolmogorov’s 1954 Paper on Nearly-Integrable HamiltonianSystems, Regular and Chaotic Dynamics, 2008, Vol. 13, No. 2, pp. 130-139.
計算がちょっとハードだが, もっともコンパクトなKAM理論の証明だと思う. Kolmogorovの不完全であった証明を, そのままの方針で完全にした形にしている. Cauchyの積分定理を使う辺りはArnoldのアイディアも盛り込まれている. Arnoldの証明では, 無限回の正準変換の合成が必要で, 合成する毎に定義域が変化する部分が1つの難解な部分であるが, この論文では各KAMトーラス毎に正準変換を構成しているため, その困難点はない.
ただ, そのせいで, 摂動が小さいほどKAMトーラスの測度が全測度に近づくという証明はできなくなっている.

[2] J. Poschel, A Lecture on the Classical KAM Theorem, Proc. Symp. Pure Math. 69 (2001) 707-732.
これもコンパクトである. KAM理論や小分母問題の専門家たちにKAM理論を勉強するには何が良いかと聞くとだいたいこれを薦められる.

[3] V. I. Arnold, Proof of a theorem of A. N. Kolmogorov on the invariance of quasi-periodic motions under small perturbations of the Hamiltonian. Russian Math. Survey 18 : 9-36.
Kolmogorovの証明をArnoldが完全にしたものである. Arnoldは幾何学的なセンスで理論を構築していく人だと思っていたけれど,計算力もスゴいことが実感できる. なお, かなり誤植があるので注意が必要である(そのうちのいくつかは, ロシア語から英語に翻訳する際のミスと思われる).

[4] A. N. Kolmogorov, General theory of dynamical systems and classical mechanics, in Proc. of the 1954 Intern. Congress Math. pp. 315-333(Russian).
KAM理論のアイディアや力学系の発展について触れている.
Abraham & Marsden著, Foundations of Mechanicsの付録に英訳が載っている.

4. 可積分性の判定

N体問題とは, N個の質点が万有引力により引き合っているときの運動を調べる問題である.2体問題は解けるが, 3体問題は非常に難しく, 現在もそのダイナミクスの全容はよく分かっていない.

性質を調べる研究が古くからなされている. Kowalevskayaは特異点を持つ解の解析接続性に着目することにより, 3 体問題の非可積分性や複雑さの一因は3 体衝突特異点の構造にあると考えられ, 衝突特異点の剛体の問題で可積分系となる新たなパラメータを発見した. それを契機に, 特異点へ達する解の解析接続可能性と可積分性との関係を調べる研究が進められた. その研究は現在も継承されており, Ziglin解析や, 微分Galois理論の応用によるMorales-Ramis理論へと発展し, 可積分性の判定ができる例も増えてきた.
本研究では, Galois理論を用いず, 力学系的な手法に基づいた可積分性の判定を目指している.


[ハミルトン系の可積分性の判定に関する文献]

[1] 吉田春夫, 力学の解ける問題と解けない問題, 岩波書店(2005)
大変分かりやすく書かれた面白い本である.