「現象の数理モデル」に興味を持つか持たないかに関わらず、情報科学科を希望する高校生に向けて、日頃の勉強についてのアドバイスを書きます。
大学入学を目指す高校生にとって、(大学受験準備を含む) 高校での勉強は「大学に入った後の勉学の基礎」を支える側面を持ちます。この点を踏まえつつ高校での日々の勉強に当たるためには、「やがて経験する大学での勉学とは実際どのようなものか」についてある程度明確なイメージを持っておいたほうが良いでしょう。以下、学生が大学での勉学で典型的に直面する事態をいくつか挙げて高校生の勉強の参考に供しようと思います。なお以下慣例に従い高校生までを「生徒」、大学生以上を「学生」と呼びます。

高校での授業の実際はどのようなものでしょうか?多くの授業では、先生方は「板書する」ことと「板書の内容を説明する」ことを分け、生徒が板書を写す間話をせずに待っていて下さるかもしれません。
しかし映像講義も含め、大学での講義では、講師は板書をし、同時に説明をします。そこで、学生は「(視覚経由の) 板書をノートし」「(聴覚経由の) 説明をノートする」という二つの作業を同時に行うことになります。また、「講師が重要といった箇所をマークする」「説明がよくわからなかった箇所をマークする (自分の復習用)」作業も同時にしておくと、試験勉強も含めた勉学の能率が上がります。つまり、講義中の学生は少なくとも上の 4 つのタスクをこなさなくてはならない環境に置かれるわけです。多くの学生はこの「マルチタスク」(の一部) を「板書を撮る」「講義を録音する」といった手段でこなそうとするのですが、こうすると結局「後で自分一人で見直す・聞き直す」手間がかかります。
というわけで、できれば大学に入る前にこうした「マルチタスク」をこなすスキルを練習しておくと、大学入学後の勉学の負担が大幅に減ります。

さて講義中に「説明がよくわからなかった箇所 (マークされている)」があったとしましょう。分からないことはなるべく早く解決しておくのが能率のよい勉学の秘訣です。皆さんはどうしますか?
現代の多くの学生はここで「ネットを検索」し、「わかりやすく」書いてあるサイトを探して、そこに書いてあることを読んで「わかったら」おしまい、とするでしょう。「簡単な言葉の意味」などであれば、これでももちろん大丈夫です。しかし、「ネットを見て分かることは、実は大体わかっている内容だった」「さっぱりわからない内容についてネットの記事を読んでもさっぱりわからないままだった」ことはないでしょうか?

大学以上の勉学では、大げさに言うと毎日「さっぱりわからない」内容に出くわすものです。この際、内容をわかる手段として「ネット検索」だけしか知らないと、なかなか厳しい。
例えば大学での学年が進んで例えば卒業論文の内容に関する事柄となると、ネット検索で「わかりやすい」記事にヒットすることはほとんどないでしょう。
では「わからない」ことを「わかる」ために、ネット検索以外の方法が果たしてあるのでしょうか?あります。「図書館に行って本を調べる」のです。
まず「関連する内容が書いてあるかもしれない本を (例えば) 10 冊本棚から取り出して机に積み上げ」次に「目次・索引を使って自分の分からない概念の説明箇所を見つけ出し」「10 冊の本の説明を突き合わせて」わかろうとする、というのが、古今東西問わず大学生の勉学の姿となります。
本の記述を比較するには前提として「文章の読解力」が必要になります。
その文章は「定義」を述べているのか「主張」を述べているのか、「定義」であれば例を挙げられるか、「主張」であればその「仮定」「結論」を取り出せるか・・・
というわけで、できれば大学に入る前に「未知の内容が書いてある、ある程度長い文章を読む読解スキル (つまり現代文の読解力)」と「(複数の) 本を使いこなすスキル」を練習しておくと、大学入学後の勉学の負担が大幅に減ります。

「複数の参考書を使うと、似た問題に対して参考書によって全然違う答えが書いてあるので能率的な勉強にならない。一つの問題については正しい一つの解答を暗記し、その当て嵌め方を問題演習を通じて練習することが能率的な勉強である」と思う生徒もいるでしょう。確かに「大学合格だけが勉強の目標」であるなら、こうした考えにも一理あるかもしれません。しかし、こうした勉強法が大学後にも「役に立つ」かどうかという観点からは、そうとも言い切れません。
例えば、大学も 3、4 年生になると「ゼミナール」というものが始まります。
これはテキストを決めて、その内容をゼミナールのメンバーの前で説明していく、という形を取るのですが、しばしば発表者が聴衆から「説明がよくわかりません」と言われる場合があります。このときは、発表者は聴衆と会話をしつつ、聴衆が理解できるように説明の仕方を変えなくてはいけません。先ほどまで計算で説明していた内容を今度は図を使って説明する、などというのは頻繁に起こることです。
このような「与えられた環境に応じて説明の仕方を変える」スキルは、高校までではいわば「別解力」とでもいうべきスキルであって、「問題には正しい解答を一個だけ暗記すればよい」という勉強法ではなかなか身につきづらいものです。
というわけで、できれば大学に入る前に「別解を考える」習慣を身につけておく (それぞれの解法の利点と欠点まで含めて考えられるとなおよい) と、大学 3、4 年生での勉学の負担が大幅に減ります。

以上、多くの高校生が「能率のよい勉強とはどのようなものか」について大学での勉学の観点から誤解しがちな点をいくつか挙げました。
「高校課程での勉強の目的は大学に受かることだけ」ではないこと、高校課程での勉強の経験は、大学入学後も、いや、就職後に新たなことを学ぶことまで広い射程をもつものであることをよく頭に留め、「一見新規で能率のよさそうな、しかし実は (社会に出た後も含め) 大学以上になるとあまり役に立たない勉強法」に陥らないよう十分注意して勉強に臨まれることをお勧めします。