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本講座では現実世界に見られる様々な現象の数理モデルに関する、数理的側面からの研究教育を行っています。 以下全体的な活動内容の概要をご紹介します。

現代科学における数理的アプローチは、扱う未知の現象に対し、①数学を使用言語として現象の模型 (「数理モデル」といいます) を作り、②現代数学の力を用いて模型の性質を調べ、③得られた結果と現実との対比検証を実験・観察を通じ行う、という三段階を経ます。 特に数学を「①現象を記述する言語」「②得られた数理モデルを解析する道具」という二つの立場から使いこなすことが特徴です。

例えば流体の運動を考えてみましょう。
まず①数理モデルですが、流体の運動を規定する基礎法則は運動量保存則で、これを具体的に書き下すことにより Navier-Stokes 方程式という非線型偏微分方程式が得られます。 ②次に、関数解析学、実解析学といった純粋数学的理論を駆使して方程式の数学的性質を調べます。 ③こうして得られた知見を、実際の流体の運動に還元します。 この際には実験物理学や工学の研究者との協働が重要になります。

現象の数理モデルを構築する①では、(流体のように) すでによくわかっている物理法則が数理モデルを与えることは稀で、多くの場合経験則に基づくモデルを構築することになります。 この際には、対象とする現象を扱う応用科学の知識も必要になります。 例えば本講座で扱われるテーマの一つである、癌治療の一種である電気穿孔法の数理モデルでは、「生体内で電場をかけるとどのようなことが起こるか」を、経験則も含めて数理モデル化します。 また、得られたモデルの解析を行う②でも、既存の数学理論をそのまま適用すれば解決というわけにはなかなかいかず、モデルの特徴を捕まえた新たな純粋数学的理論を構築することがしばしば必要になります。 例えば2000年にアメリカのクレイ研究所から発表された「ミレニアム問題」(賞金 100 万ドル) の一つは、Navier-Stokes 方程式の可解性を証明せよ、というものであり、現在のところ未解決です。

このように、現象から得られる数理モデルが新たな純粋数学的課題を提供し、また、純粋数学における理論的進展が新たな数理モデルの解析手法を与える、という形で、現象と数理が相互作用しつつ発展していく、というのが数理科学の姿であり、近年自然現象に留まらず、金融などの経済現象やニューラルネットなどの「情報現象」も含め、幅広い分野で盛んに研究が進められています。

本講座ではこのような「現象との関連を見据えた数理的アプローチ」に関する研究教育を行っています。 数学自体に興味のある方はもちろん、数学を用いた現象の解析、数学がどのように実社会で役に立っているかを知りたい方まで、広く興味を持っていただけますと幸いです。

基礎工学部以外から大学院へ進学しても大丈夫でしょうか?

大丈夫です。数学をコアに様々な現象に対して研究を行なっています。実際に、理学系、工学系、情報系、農学・生命科学系など様々なバックグラウンドを持つ学生が集まっています。また、東アジア、東南アジアなどからも多くの留学生が所属しています。

指導教員はどのように決まりますか?

まず学生側に希望があれば、それを優先します。
特に希望がなければ、興味があるテーマや分野などについて話を聞いて、教員側から提案します。

研究テーマはどのように決めますか?

具体的な研究テーマを持っている場合は、それを話してもらって対応できる教員が研究指導します。
一方、具体的な研究テーマを持っていない場合は、次の段階を踏んでテーマが決まることが多いです。
まず、指導教員を決める際に、大まかな方向性も一緒に決めます。
その後、研究活動に入る前に、研究に必要な基礎を修得する段階があります。
この段階を進める中で、研究課題がいくつか見えてきます。
それらから選択する形で、次第に研究テーマが決まります。

週にどれくらい研究室の活動がありますか?

指導教官によって差はありますが、2時間程のゼミ発表が週に1回くらいの頻度であります。
それ以外の時間は基本的に自由です。
また、発表の準備も、研究室で行っても構いませんし、自宅で行っても構いません。